2010年03月11日

漫画『天才柳沢教授の生活』山下和美

探究心と好奇心、深い人間味を兼ね備えた
柳沢良則教授のユーモラスで魅力的な日々を
時に感動を、時におもしろさを、時に怒りを
交えて描いた傑作物語。
「天才」という食傷気味の言葉に引っ張られず
ひとりの人間柳沢教授の人生・生き様・美学を
ウィットに富んだ内容で表現している所がすごい。
作品の完成度に比べ、知名度が低いのが悔しい。
よって今回は気合を入れてご紹介したい。



〜あらすじ〜

柳沢良則は、Y大学の経済学教授である。
68歳(途中で教授の4人娘が教授の68歳の誕生日
を祝う回があったので68歳とする。
その後、67歳という記述もあるがスルーする)
のナイスミドル。
年齢を問わず未だに女性たちのあこがれの的。
作中彼に恋心を抱く女性が雨後の筍よろしく
次々と登場する。
彼の昔のエピソードも描かれることも多いが
幼少期(紅顔の美少年)、
青年期(皆目麗しい美青年)、
成人後(注目を浴びる美中年w 造語)
……であり常に女性から熱い視線を受けている。
漫画界を代表する「カレセン」(枯れ専門)。
だが、柳沢教授は奥さん正子以外を
自らの恋愛対象としていない感が漂う。
鉄仮面然とした冷血漢に思われる容姿だが、
特に青年期の彼は奥さんに対して学問と同じ位
熱い情熱を持ち、彼らしくない嫉妬も覗かせた。

汗牛充棟を絵に描いたような書斎、そして
納まりきらずに家に所狭しと積み上げられていく
本、本、本の山。読書量は異常であり、
給料が入るとまず本を購入してしまうので
奥さんからは『本が恋人』と言われ、
本は目の敵にされている。
地震の際には、本棚を押さえないと命が危ない。
だから本に関するエピソードは数多く登場する。
蔵書の中には、ものすごい高価な書物も多い。

柳沢教授は、カクカクと早足で歩き、
角を直角で曲がる。その姿は滑稽だ。
交通法規を遵守するため、その実他の人間よりも
多くの時間を費やすことも多い。
そのことは、今年から柳沢教授と同じ大学に通う
ことになった4女の世津子からも指摘されている。
また、目が細いという身体的特徴のため、
視野が狭く(人間的視野は広い)、
寝そべっている酔っ払いにつまずくこともある。

探究心、好奇心の塊であり、特に人間観察や
いろんな人間と話すことが好きである。
教授に差別心がないため、わけへだてなく、
怯むことなくつきあう。
「殴ればわかる」のヤクザにも「話せばわかる」
と怯まず、道理を説き、論破する。

柳沢教授の持つオーラの成せる業なのか
ロック歌手やアイドル、映画俳優に任侠、
イタリアマフィア(学生時代の友人)などとも
仲良くなることがある。教授からと言うよりも
相手からアプローチがあることが多く、
基本的にそれらのことに疎い教授は彼らを
知らないことが多い。
また、時に幽霊すらも引き寄せてしまう。
(教授は幽霊を見たことがあるが、基本的に
信じないと明言している。発言したタイミング
が幽霊を見た後なので単純に作者のミスかな?)

これは、経済学が人間生活と密接に結びついて
いる実学であり、実践が伴うべきもの
と教授が捉えているからだ。
幼少期に「人間の顔」って何でこんなに変わるのか
不思議だな、おもしろいと感じたこと。
シェークスピア研究者の彼の父(作者の祖父)
の心について興味を抱いたことなどに起因する。

経済的観念に基づき、安く新鮮なお買い得の魚を
求め魚屋・スーパーを散策する経済的人間である。
教授の家では魚を食べることが多いので、
安いアジを探索するエピソードや買い物に出かけ
合理的なのか不合理なのかわからぬオバさん
と論議を交わす話が描かれることも。
80万円もするパソコンを購入した回もあり、
そこから教授が年間に本に消費する金額は
ざっと約270万円ほどだと推理できる。

モンゴルにそっくりさんがいる。
(単行本の表紙に描かれているので隠さない)

主人公は柳沢教授に留まらない。
娘の「世津子」…大人げない、不器用な性格
自覚がないが教授に似ている

その恋人の「ヒロミツ」
パンク。X JAPANっぽい髪型。
立てた髪は推定70cm位ありそうだ。
生まれながらの舎弟体質。
派手な見た目と違ってハートが弱いお人よし。
性格はやさしく、人から慕われるタイプ。

孫の「華子」
華子が主人公の回は教授に次いで多い。
初登場時は、教授の世話を焼いた華子だったが
成長するに連れ、教授になつきストーキング、
大好きなおじいちゃんをまねて難しい本を読む
フリをして大得意の大満足。
主役よりも悪役キャラを好きになる傾向あり。
負けず嫌いなこどもらしいこどもとして
語に花を添える。「死」の概念がわからない。 



教授の奥さん「正子」

かつては美人で深窓の令嬢、ピアノの名手。
海外に旅行するときは豪華客船に乗るため
飛行機に乗ったことがないという 
世間知らずで途方もない大金持ちの姉がいる。 
自動車の免許を持つが30年間乗っていないと
いうペーパードライバー。
4人の子宝に恵まれ、
物持ちがよく捨てられない貧乏性。
 
またそれ以外の人物に焦点を当てられ、
彼女たちの物語の場合もある。その際に
柳沢教授は彼らを観察・俯瞰する脇役にまわり
彼なりの深い洞察力で本質を見抜いている。

過去の知り合いや友人であった「彼ら」「彼女ら」
「猫」や「犬」と柳沢教授のエピソード、
及び現在に至る物語が語られるケースも多い。
彼らにとって柳沢教授は
胸を焦がした愛しい人であったり、
ライバルであったり、超えたい壁であったり、
天敵ないしは恩人であったり、憧れだったりする。
つまり大概、人生を左右された存在・
強い印象を持っていた(いる)場合が多い。

大学が舞台ということで、数多くの「教授」や
キャラのそれぞれの体験から「先生」などの
数多くの教育者が登場する。

第一部 68歳の柳沢教授が主人公。19巻まで。
過去を題材に描かれることもあるが、
現在に帰結する。教授の連載当時から
19巻までで10年以上を経ているが、
教授が年齢をとった印象はない。

第二部 第二次世界大戦が終了し玉音放送が
流れる中、若かりし日の教授が登場。
焼け跡で人々が混乱する中、
教授だけはショックを受けずにすごしていた。
作品がはじまったのが、1988年なので
そこから概算すると教授が25歳頃の話。
ということになる。
教授は1920年頃生まれた計算になり、
現代に生きていれば90歳になる。
(教授のモデルは数学者だった作者の父、
教授の父は英文学教授だった作者の祖父)
柳沢教授は、風変わりな建物で
こどもたち相手に「教育」を行うことに。
GHQに目をつけられたその建物は学校に。
「先生」としてやってきた柳沢は、
英語に堪能であり、
アメリカ方言的訛りにまで精通している。    
戦争孤児・浮浪児から教えられることもある。
放っておいたら、戦勝国に都合のよい
「教育」をされてしまう。
そもそも戦時下に蔓延っていた教育って
何だったのか?と問いかける。

人間ってしぶといし、強いんだ。
そして多くの可能性を秘めているんだ。
闇市で、こどもたちといっしょに考案した
おもちゃを売ったり、そこで発生した
需要と供給、経済マーケットの理論など
も交えながらたくましく生きる人間を描く。
戦後の復興の混乱とそこでも健気に生きる
人々の姿に勇気づけられる。    
敵役であるアレン中佐と建物の因縁、
秘密なども絡めて深みのある物語を展開。    
第二部は24巻まで。
教育者としての礎を築いた教授の物語は
現代につながり、大円団を迎える。

第三部 25巻〜

柳沢教授はメールを使用するようになり
ヤクザのゼミ生の意外な一面も見たり、    
メールによっておこる勘違いを体験。
また、天才柳沢少年が9歳にして大学の講義を
「理解」していたり、同級生から頭がよくない
と言われたエピソードなどが語られます。

文庫版は1冊で2冊分を収録しているので
通常版モーニングKC版より
講談社漫画文庫版の方がおすすめ。
また、関連本として『天才柳沢教授の冒険』があります。
(教授の夢の世界を描いた番外編のようなもの)

34巻〜 ☆☆☆☆★
posted by おすすめ漫画、漫画百選、漫画名言 at 07:37| Comment(1) | TrackBack(0) | ☆☆☆☆★のおすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
松本幸四郎主演のドラマはみてました。
すごい面白かった記憶が。

>私も観ましたよ。ドラマの方が先でおもしろかったです。
 作者本人も「柳沢教授」を演じられる人がいることに
 感動して、喜んだってエピソードがありました。
Posted by ペコ at 2010年03月12日 23:27
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【安寿(あんじゅ)】管理人
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 本屋が好きです。
 
 幼少の頃から
 漫画が大好きだった私が
 まさか漫画家になるとは
 誰も予想しませんてした。
 そして実際なりません
 でした。