手に入れた自転車に乗りたくてうずうずしていた。
しかし、その町で自転車に乗る者はいなかった。
なぜならそこは「坂の町」であり、
自転車よりも歩く方がよほどラクだったから。
誰もが根を上げる「二番坂」を登ろうと挑戦しはじめた
テルを同級生たちはあざ笑う。すぐにあきらめるはずだ。
しかし、人一倍負けん気が強いテルはその坂を登りきった。
感動する同級生たち。
しかし、既にテルの目は「一番坂」をめざしていた。
高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな。
自動車でしか登れない。
そんな絶望的な坂を自転車で登る。
フツーならあきらめる。妥協する。諦観する。
そんな困難さえも、少年は立ち向かう。
足をついてしまったら坂の最初からやり直しだ。
いつしかその姿は人々の心に熱い何かを植え付ける。
そして、少年は偉業を成し遂げる。
坂の上の雲を制した少年は、昨日の自分を超えようと
坂に挑戦し続ける日々を送り、いつしか「坂の町」の
名物として語り継がれるようになる。
坂以外のことには興味を抱かないテルを心配する
家族だったが、中学三年で転機が訪れる。
不幸な交通事故によって東京オリンピックの日本代表を
逃した「ロケット・ユタ」と、その息子由多比呂彦(ユタ)。
「坂やったら誰にも負けへん」と自信を持っていたテル
だったが、英才教育を受けてきたユタに坂で負けてしまった
テルは、ユタに対抗意識を燃やし再戦をはかる。
ユタが来春、推薦で入学の決まっている亀校は自転車部を
有し、どうやらそこに自分が闘う坂や困難があるのでは?
テルは亀校に入学することを決意するが、
坂を走るだけの坂バカにとって難関校だった。
逆境に強いテルはなんとか高校入学を果たし、
早速自転車部に入部するが、犬猿の仲であるユタ、
そして自転車キャプテンであり実力者でありながら
自己中な鳩村らに睨まれ前途多難な日々。
ちなみに自転車部の監督はユタの父である。
常に高みをめざしレーサー向きの魂を持つテルは
ユタ監督に目をかけられ、
ユタらと共にレースのメンバーとして抜擢される。
そのコースには心躍らせる坂が控えていた。
「コンドル」や「カイザー」と呼ばれる強豪ひしめく
ライバルたちの登場。
そして、誰もが絶望するような逆境。
下を向かずに、ただ上だけを見て前へと生きる。
【坂を舞い登るテル】
作中登場する自転車レースは、数十キロの長丁場。
「ツール・ド・おきなわ」に至っては全長200キロ。
しかも、参加者の多くの心をくじく巨大な坂が控えていた。
誰もが息を飲む坂、そして皆の心を萎えさせる強風。
何度もアタックしてライバルたちを疲弊させるライバルたち。
そして何よりも自分自身の敵は自分だった。
自己満足にひたらず、少年は新たな高見をめざす。
自転車を愛し、自転車に魅せられた少年の闘いは
人々の心を揺さぶり、いつしか伝説となる。
圧倒的な感動が読者を魅了する曽田正人連載デビュー作。
この頃から主人公たちは命を削るような生き方しているなぁ。
【坂を駆け下りるユタ】
小学館文庫 全7巻 ☆☆☆☆+