深い絆で結ばれながら、避けられぬ悲劇を描く。
6世紀後期。
大王(おおきみ)と地方豪族が政治を支配する世界。
有力豪族で大臣蘇我馬子の長男毛人(えみし)は
妹の刀自古と共に楽しい少年時代を送っていた。
馬子は、まだ10歳の聖徳太子(厩戸皇子)に
「仏法を理解していない」と言われご機嫌斜め。
馬子は熱心な仏教派であり、ライバル関係の
物部氏(神道派)らに絶対に弱みを見せたくない。
「父の腹立ちの種は息子にも及ぶ」のである。
まだ一族の長男として自覚のない毛人は、
馬子からはっぱをかけられてしまう。
気分を変えたいと池にやってきた毛人は、
まだ寒いのに泳いでいる女を発見。
妹の刀自古と勘違いし、話しかけようとするが、
仙女と見紛うほどの美少年厩戸皇子だった。
(このとき毛人は、美少女と勘違いしている)
厩戸皇子は、柔らかな指・雲のような豊かな髪
花のような美しい顔、口もとは愛らしく、
瞳はつぶらではっきりした美少年であり、
人並みはずれた聡明さと超能力やカリスマ性を
兼ね備えた「弥勒菩薩」の化身のような超人。
超能力…テレパシー、宙を飛ぶ、物を飛ばす、
人を操る、天気を司る(一人ではできない)、
鬼を出す、異界のものが見られるなど
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皇子の持つ不思議な能力を目の当たりにした
毛人だったが、なぜか皇子の超能力が効かない。
その得体の知れなさから恐怖する毛人だったが
妖しい魅力や大臣の息子という立場もあり、
実の母さえ恐怖する皇子と厚い情で結ばれていく。
皇子にとっても「本当の自分を受け入れてくれる」
唯一無二の存在として
毛人の存在はどんどん大きくなっていく。
政治を支配するという強い野望を持つ皇子は
蘇我馬子や後の推古天皇と表面的に結託し、
ライバルの物部氏や天皇排斥を画策。
恐ろしいほどの聡明さを持つ皇子は
無能・恥知らず・人望なしのダメ三冠王の崇峻天皇を
じわりじわりと追い詰めていく。
権謀術数うずまく政治の対決、それに密接に関係する
家の復興や繋がりを目的とした結婚。
そして、展開される壮絶なまでの恋愛関係。
神懸り的な超能力とカリスマ性を有しながら
満たされない想いを抱き苦悩する厩戸皇子。
この物語の大きな要素のひとつは純愛もあるが
「道ならぬ恋」の数々。許されぬ禁断の恋。
いわゆるボーイズラブの先駆け的作品。
成就されない多くの想いが、更なる悲劇を生むのは、
いつの時代も変わらない。
随所に作者の遊び心が見られシリアスストーリーに
花を添える。カテゴリーとしては歴史・恋愛漫画。
ルビ(ひらがな)表記が徹底しているので
こどもも読めるが、内容は結構ハードであり
大人も十分に楽しめるレベルの高い作品。
☆☆☆☆+ 白泉社文庫版全7巻
最終巻7巻には「馬屋古女王」も収録。
厩戸皇子の死亡。その棺の上に現れた厩戸皇子
そっくりの美女。次々と誘惑に堕ちていく男たち。
稀代の天才を有しながら、没落していく上宮王家の
悲劇を甘美あふれる内容で締めた完結編。